本日の一言|「ああ、駆け出て行って踊りたい!」

 昔話として読んだ「こぶとりじいさん」。その話が、『宇治拾遺物語』(巻1-3)にある。

 同じ昔話でも、「かぐや姫」や「浦島太郎」の物語などを古文で読むと、昔話として知っているものとは微妙に違っていたりする。しかし、『宇治拾遺物語』の「鬼にこぶ取らるる事」のストーリーは、昔話のものとほぼ同じだ。

 今日は、そこから「踊れるじいじ」のセリフを。

No. 4

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本日の一言

「ああ、駆け出て行って踊りたい!」

 右の頬に大きな瘤のあるおじいさんが、不意の雨に降られて雨宿り中に、鬼の宴に出くわす。宴会で踊っている鬼たちを見ているうちに、じいじは「自分も踊りたい」気持ちが抑えきれなくなる。そのときのセリフ。

 原文では、こうだ。

「あはれ、走りでて舞はばや。」

 そして、じいじは鬼たちの前に躍り出て、鬼たちに「また来いよ」と言わせるほどの舞を披露し、必ずまた来るための「しち」として、顔の大きな瘤を預ける。つまり、「こぶを取ってもらえた」というお話だ。

ほとばしる願望「~ばや」

 踊れるじいじは、鬼たちの舞を見て、居ても立っても居られなくなった。鬼が怖いのとはかりにかけて、「踊りたい」方が勝ったのだから、相当な情熱だ。

踊りたい!= 舞はばや!

である。

「~ばや」を使ってみる

 この「心の底から湧き出る」イメージで、「~ばや」を使ってみる。

続きが気になるマンガ

早く続きが 読みたい!= 早く続きを 読まばや!

 古語に忠実にするならば、「く次のまきを 見ばや!」とでもなるか。

 だが、全部古語にすると、「~ばや」がぼやける。ここは、現代語に「~ばや」を乱入させて、「~ばや」を際立たせておく。

夜は間食しないぞと思いつつ

ああ、お菓子 食べたい!= ああ、お菓子 食はばや!

 古語に忠実にしてみても、「あはれ、くゎ 食はばや!」ぐらい。

 古語にも「菓子」ということば自体はある。だが、その意味するところは「主食以外の食べ物」で、当時は菓子といえば果物だったそうだ。

 今言うところの「菓子」に近づけるには、例えば教科書によく載る「ちごのかいもちするにそらしたる事」の「かいもち(=ぼたもち)」のように、具体的な品名にするしか無さげ。

 とはいえ、そもそもチョコやポテチは無い時代のことだから、訳すにも限界はある。

  • 菓子は「くゎし」だから、「かし」で古語辞典を引いてみても見つからない。けっこうこの「くゎ」はイラっとするものの一つだ。今は「くゎ」と「か」の区別が無くなっているから、「くゎし」でも「かし」と読んでおけばいいのだが、昔はその区別があった。だから、あくまでも古語辞典で「菓子」は「くゎし」なのだ。
  • 「くゎ」の発音は、英語の quality とか、question を発音するときの qu の部分の子音に母音のアをつける感じになる。何とも日本語っぽくない音になる。それでも、昔は「か」と「くゎ」とを区別したのは、元々の中国語の発音に忠実だったから。だから、日本産のことば(やまとことば、和語)の、「かぜ(風)」とか「かげろう(蜻蛉)」とかだったら、迷わず「か」で辞書を引けばよい。
  • 一方、漢語だったら全部「くゎ」ではなく、「加護」は「かご」、「過去」は「くゎこ」という具合だから、始末が悪いわけだ。「加」は「か」、「過」は「くゎ」と決まっていて、「くゎ」の発音になる漢字の数はそう多いものでもない。だが、わざわざ覚えるものでもないだろう。一度、「過去」は「くゎこ」かよっ#と学習したら、「過客」も「くゎかく」、「過言」も「くゎごん」だ。
  • ちなみに、「が」と「ぐゎ」も同様の理屈によるものである。「学士」は「がくし」だが、「願書」は「ぐゎんしょ」という具合。随分とこぶとりじいさんから話が逸れてしまった。

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