昔話として読んだ「こぶとりじいさん」。その話が、『宇治拾遺物語』(巻1-3)に載っている。
同じ昔話でも、「かぐや姫」や「浦島太郎」の物語などを古文で読むと、昔話として知っているものとは、微妙に違っていたりする。しかし、『宇治拾遺物語』の「鬼に瘤取らるる事」のストーリーは、昔話のものとほぼ同じだ。
幼少時に読んだお話を、古語で読むというのは、実に不思議な心地のするもので、全く「子ども向け感」が無くなるのがおもしろい。また、鬼やおじいさんが、古語でしゃべっているのは楽しい。知っているストーリーだから、セリフがすんなりと理解できる。
その中から、鬼との遭遇の恐怖を乗り越えてでも、踊りたい気持ちを抑え切れなかった老爺のセリフを取り上げる。
私が参照した、国立国会図書館デジタルコレクションの資料のURLを、以下に記しておきます。「鬼に瘤取らるる事」の原文をお読みになりたい場合は、ご活用ください。→ 塚本哲三 編『宇治拾遺物語』,有朋堂書店,昭和6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1108723/1/12 (参照 2026-04-27){alertSuccess}
[本日の一言]No. 4
本日の一言
右の頬に大きな瘤のある老爺が、不意の雨に降られて雨宿り中に、鬼の宴に出くわす。この老爺、実は、踊りとなると体が自然に動き出す、踊れるじいじだった!
宴会で踊っている鬼たちを見ているうちに、老爺は「自分も踊りたい」気持ちが抑えきれなくなる。そのときのセリフがこれで、古語だとこんなだ。
「あはれ、走り出でて、舞はばや(まわばや)」。
ほとばしる願望「ばや」
老爺は、鬼たちの舞を見て、居ても立っても居られなくなった。鬼が怖いのと天秤にかけて、「踊りたい」ほうが勝ったのだから、相当な情熱だ。
である。
そして、老爺は鬼たちの前に躍り出て、鬼たちに「また来いよ」と言わせるほどの舞を披露し、必ずまた来るための質(しち)として、顔の大きな瘤を預ける。つまり、「こぶを取ってもらえた」というお話だ。
『宇治拾遺物語』は説話集なので、最後に何らかの教訓っぽいものが語られて、物語が終わることが多い。その教訓のために、もう一人、左の頬に瘤のある老爺が出てきて、下手な舞をしたので、例の質(しち)の瘤を逆に付けられてしまう。他人をうらやむなよ、という教訓である。{alertSuccess}
「ばや」を使ってみる
さて、ではこの「心の底から湧き出る」イメージで、「ばや」を使ってみよう。
続きが気になるマンガ
古語に忠実にするならば、「疾く(とく)次の巻を 見ばや!」とでもなるか。
だが、全部古語にすると、「ばや」がぼやける。ここは、現代語に「ばや」を乱入させて、「ばや」を際立たせておく。
夜は間食しないぞと思いつつ
古語に忠実にしてみても、「あはれ、菓子(くゎし)食はばや(くわばや)!」ぐらいにしかならない。
古語にも「菓子」ということば自体はある。だが、その意味するところは「主食以外の食べ物」で、当時は菓子といえば果物だった。
今、言うところの「菓子」に近づけるには、例えば教科書によく載る「ちごのかいもちするに空寝したる事」の「かいもち(→ ぼたもち)」のように、具体的な品名にするしか無さそうだ。
とはいえ、そもそもチョコやポテチは無い時代のことだから、訳すにも限界はある。
蛇足|菓子(かし)は、なんで「くゎし」?
菓子は「くゎし」だから、「かし」で古語辞典を引いてみても見つからない。けっこうこの「くゎ」は、イラっとするものの一つだ。
今は「くゎ」と「か」の区別が無くなっているから、「くゎし」でも「かし」と読んでおけばいいのだが、昔は、その区別があった。だから、あくまでも古語辞典で「菓子」は「くゎし」なのだ。
和語なら必ず「か」
「くゎ」の発音は、英語のqualityとか、questionを発音するときの、quの部分の子音に、母音のアをつける感じになる。何とも日本語っぽくない音になる。
それでも、昔は「か」と「くゎ」とを区別したのは、元々の中国語の発音に忠実だったからだ。
だから、日本産のことば(やまとことば、和語)の、「かぜ」とか「かげろう」とかだったら、迷わず「か」で辞書を引けばよい。
「くゎ」になる漢字は決まっている
一方、漢語だったら全部「くゎ」ではなく、「加護」は「かご」、「過去」は「くゎこ」という具合だから、始末が悪いわけだ。
加えるの「加」は「か」、過ぎるの「過」は「くゎ」と決まっていて、「くゎ」の発音になる漢字の数は、そう多くはない。
だが、わざわざ覚えるものでもないだろう。一度、「過去」は「くゎこ」かよっ!と学習したら、「過客」も「くゎかく」、「過言」も「くゎごん」だ。
ちなみに、「が」と「ぐゎ」も、同様の理屈によるものである。「学士」は「がくし」だが、「願書」は「ぐゎんしょ」という具合。
随分と、こぶとりじいさんから話がそれてしまった。
BGM:チャンチキおけさ 三波春夫(1957年)No. 4

